M&A対策

M&Aの基礎は、まずは、正確なデューデリジェンス(DD)にあると考えます。会計、不動産の分野のDDの重要性はもちろん大切ですが、法務DDの重要性は非常に高いというべきです。

 

株式譲渡と一言でいっても、株式は登記されているわけではなく、どのような経緯でどのように移転しているのか非常に不安定な存在なのです。株主としての権利がない人から譲渡を受けても意味がありません。譲渡の経緯を一つ一つ確認することだけでも簡単なことでもないのです。まずは、正確なDDに基づく、正しい前提とリスクの確認を行うことが必要です。

 

事業譲渡の手法をとるとしても、対象となる事業には何があるかを調査の上、特定しておく必要があります。譲受ける立場からは、予想もしないことがたくさんあります(この商号の会社のもと、まさか居酒屋を経営していた?ということも現にあります)。

 

とにかく、早くDDの専門家をつれて、現地にいく、ということが大切です。たたき上げの刑事ではありませんが、想像力をフルに働かせて、現場に身を投じることが一番だと考えます。

 

次に、どのような手法によるべきかを検討することが大切です。株式の全部譲受は一番簡単なのですが、会社そのものを譲り受けることに対する、簿外債務や予想外のリスクを伴いますので、しっかりした調査の上で行うことが必要です。

 

一部の株式を譲り受ける場合は、会社法は多数決原理によっていることに注意が必要です。ケースによっては、例えば34%しか株式を取得できないが、会社を支配したいということもあると思います。この場合は、契約書で、取締役の選任等について、きちんと、議決権を制限する条項を設けておく必要があります。単に、「取締役は3名とし、そのうち、2名を乙(譲受人)が選任できるものとする」というだけの条項にしていませんか?

 

議決権の制限であることを意識した条項にしておかないといけません。

また、この場合、株主の全員参加である契約であることが求められるなど、いろいろなハードルが高いので、契約条項は専門家が入ることが不可欠です。

 

株式譲渡では心配な場合、事業譲渡の手法を用いることが多いと思います。

この場合、対象となる事業は何かを正確にしておく必要があります。抽象的に甲の事業を全部譲り受けるなどとし、思いもかけなかった赤字続きの居酒屋がついてくる、などということは防がないといけません。

 

また、注意しておくべきことは、商号を続用する場合、譲受人に債務が承継されることになるので、それに対する対策をきちんと講じておく必要があります。商号すなわち社名を継続していない場合でも店舗の名称(例えば、「あお空印刷」といったお店の名前)を、そのまま引き継ぐこともありますが、この場合も、譲受人に債務が承継されることとなりえます。

債権者に通知をしたり登記をするといった方法がありますが、この点は、事業譲渡のスキームの重大な点ですので注意が必要です。

 

この点については、商法17条や最判昭和38年3月1日判決、最判平成16年2月20日判決などをよく調べておくことが必要です。

 

そのほか、株式交換や会社分割の手法も有用です。また、事業を一部解消するために通常・特別清算手続をとることが望ましいこともあります。

 

スキームは、柔軟に、かつ、決断したら迅速に、が、重要なことだと考えます。