民法改正により、消滅時効期間が、人身損害は5年間、その余の損害は3年間とされるが、セクハラ・パワハラの精神的損害の消滅時効は何年になるか

第1 民法改正により、消滅時効の期間が、人身損害は5年間、その余の損害は3年間とされるところ、セクハラ・パワハラ等による精神的損害の消滅時効期間が明らかでないこと


1 民法改正により、消滅時効の期間が改正されたこと
先般、民法の一部を改正する法律が成立となり、令和2年4月1日、改正民法が施行されることになりました。
かかる民法改正により、多数の重要な点について改正がされますが、消滅時効の期間についても、改正がされました。

 

2 民法改正により、人身損害の損害賠償請求権の消滅時効期間が5年間、その余の損害は3年間とされたこと
改正前の民法は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間について、損害の種類で分けることなく、全ての損害について3年間としていました。
これに対し、改正民法は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間を原則3年とすることは変わらないものの、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間を、5年間としました(改正民法724条の2)。
この理由について、国会の法務委員会は、生命又は身体の侵害による損害賠償請求権(人身損害)は、他の被侵害利益と比べて権利行使の機会を確保する必要性が高いためであるとしています。

 

3 「身体を害する不法行為」の意義が明確でないこと
以上の通り、改正前の民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、損害の種類により区別されることなく、全ての損害について3年間とされていました。
民法改正により、「生命又は身体を害する不法行為」による損害賠償請求権の消滅時効期間は、他の損害と区別され、5年間とされます。
この点、生命を害する不法行為とは、人の生命を奪う不法行為であることが文言上明らかといえます。しかしながら、「身体を害する不法行為」に、精神的損害を含むか否かが、文言上、明らかとまではいえません。
そのため、精神的な損害を与える不法行為が、「身体を害する不法行為」といえるか否かが明確でなく、時効期間の管理に支障を生じることが懸念されます。

 

4 セクハラ・パワハラの消滅時効期間は、3年間か、5年間か
例えば、セクハラ・パワハラにより、怪我をさせられる等、身体に損害が生じた場合が、「身体を害する不法行為」といえることについては、争いはないものと思われます。
しかしながら、セクハラ・パワハラにより、身体的な損害が生じていないものの、精神的苦痛(精神的損害)を受けた場合、かかる損害が「身体を害する不法行為」といえるか否かは、明らかでありません。
そこで、以下において、セクハラ・パワハラにより、身体的な損害が生じていないものの、精神的損害が生じた場合、「身体を害する不法行為」といえ、消滅時効期間が5年間となるか、「身体を害する不法行為」ということはできず、3年間となるかについて検討をいたします。

 

第2 身体的な損害が生じないセクハラ・パワハラによる精神的損害は、「身体を害する不法行為」とはいえないため、消滅時効期間が3年間とされる可能性が高いこと


1 はじめに
セクハラとは、相手方の意に反する性的言動と定義されます。
また、パワハラは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働  者の就業環境が害されることと定義されます。
このように、セクハラは性的言動、パワハラは雇用する労働者の就業環境が害されることとされており、侵害の対象が身体か精神かによる区別はされていません。
そのため、セクハラ・パワハラでも、身体に損害が生じる場合と、身体に損害が生じないものの、精神的損害が生じる場合が考えられます。
このうち、傷害を負う等、身体に損害が生じた場合であれば、「身体を害する不法行為」といえることは明らかであり、消滅時効期間は5年間となります。
しかしながら、セクハラないしパワハラに該当する行為があり、精神的な苦痛があり、精神的な損害が発生したものの、身体に損害が生じなかった場合、「身体を害する不法行為」といえる否かは、明らかではありません。
そこで、以下において、身体に損害が生じていないものの、精神的損害が生じた場合のセクハラ・パワハラが、「身体を害する不法行為」といえるか否かについて、検討をいたします。

 

2 改正民法724条の2の文言解釈からは、身体に損害が生じない精神的損害は、「身体を害する不法行為」に当たらないといえること
人の生命又は身体を害する不法行為の時効期間について規定する改正民法724条の2の条文は、以下の通りです。

 

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二   人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

 

以上の通り改正民法724条の2は、時効期間が延長される不法行為の対象を「生命」又は「身体」であるとしています。
この点、大辞林によれば、「身体」とは、人のからだ、肉体をいいます。そのため、条文に用いられている文言の意味内容からすれば、「身体を害する不法行為」とは、人のからだ、肉体に対し損害を与える不法行為をいうことになります。
以上を前提とすると、精神的損害が生じたとしても、身体に損害が生じていないのであれば、肉体に損害が生じたとはいえず、「身体を害する不法行為」とすることはできないことになります。
そのため、改正民法724条の2の文言から解釈すると、セクハラ・パワハラにより精神的損害が生じたとしても、身体に損害が生じていないのであれば、「身体を害する不法行為」に当たらないといえます。

 

3 民法の他の条文の文言と比較しても、「身体を害する不法行為」に当たらないといえること
次に、改正民法724条の2の文言と、他の改正民法の条文の文言を比較し、身体に損害が生じない精神的損害が、「身体を害する」といえるか否かについて、検討いたします。
以下の通り、改正民法858条には、「身体」と似た文言である「心身」という文言が用いられています。

 

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

 

改正民法858条は、文言上、成年被後見人の生活や財産の管理などを行う成年後見人に対し、成年被後見人の「心身」の状態に配慮しなければならないとしています。また同条は、条文上、成年被後見人の意思を尊重することを求めています。
かかる記載からして、同条は、成年被後見人の心情、すなわち、精神面に配慮することを求めているといえます。
他方で、改正民法724条の2は、時効が延長される不法行為の対象を「身体」としています。
この点、同じ法律において、同じ意味を表す際には、同じ文言が使用されます。異なる文言が使用されているのであれば、それらは違う意味を示すために、異なる文言が使用されていると考えることが自然といえます。
同じ改正民法724条の2において、精神面に配慮することを求める858条が使用する「心身」と異なる「身体」という文言が敢えて使用されていることからすると、改正民法724条の2は人の心である精神に対する損害すなわち精神的損害を対象としていないといえます。
そのため、改正民法の他の条文との比較からしても、セクハラ・パワハラにより精神的損害が生じたとしても、身体に損害が生じていないのであれば、「身体を害する不法行為」に当たらないといえます。

 

4 他の法律の同じ文言に関する裁判例を参照しても「身体を害する」不法行為に当たらないといえること
改正民法以外の法においても「身体を害する不法行為」という文言が用いられています。
例えば、破産法253条1項3号においても「身体を害する不法行為」という文言が用いられていますが、同号に関する裁判例を参照すると、精神的損害である不貞行為に基づく損害賠償請求は、「身体を害する不法行為」と同視すべきであると解することはできないと判示されています。
かかる解釈を前提とすると、同じ文言が使用されている改正民法724条の2においても、身体に損害が生じず、精神的損害にのみが生じた不法行為は、「身体を害する不法行為」にはあたらないといえます。
以下、詳述します。

 

(1)破産法に関する裁判例において、精神的損害を与えた不貞行為(不法行為)は、「身体を害する不法行為」とはいえないと判示されていること
破産法253条1項3号は、破産手続によって免責されない請求権として、「身体を害する不法行為」を挙げています。

 

破産法
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)

 

かかる文言は、改正民法724条の2と同じ文言です。
ここで、東京地裁平成21年6月3日判決は、配偶者と不貞行為に及んだ相手方に対し、不貞行為により精神的苦痛を被ったとして、慰謝料の支払いを請求した事件において、相手方が破産手続開始決定を受けていたというケースにおいて、「破産者の不貞行為に基づく損害賠償請求権は」「身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」とはいえないとして、非免責債権と同視すべきであると解することまではできないと判示しました。

 

「破産者の不貞行為に基づく損害賠償請求権は,たとえそれが故意又は重大な過失によるものであるとしても,上記の「人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」と同視すべきものであると解することまではできない。」
【東京地裁平成21年6月3日(Westlaw Japan文献番号2009WLJPCA06038007)】

 

不貞行為とは、配偶者のある人が、自身の自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を持つことです。これは、配偶者の身体そのものを害するという、「身体を害する」ものではなく、精神的損害に留まるものです。
すなわち、かかる裁判例は、精神的損害を与えた不貞行為(不法行為)は、身体を害する不法行為であるとはいえない旨判示したものといえます。

 

(2)破産法253条1項3号と改正民法724条の2は、いずれも不法行為により生じた債権について定めた規定であり同じ文言について同じ意味と解釈すべきであること
破産法と改正民法は異なる法律です。
しかしながら、使われている「身体を害する」という文言は、同一です。
また、民法724条の2及び破産法253条1項3号は、いずれも「身体を害する不法行為」について定めた規定です。
このように、いずれも不法行為により発生した債権について定めた規定が、同じ文言を使用しているものであるため、「身体を害する不法行為」という文言は、同じ解釈をすべきといえます。
そのため、破産法253条1項3号と同様に、精神的損害が生じたものの、身体に損害の生じていないのであれば、民法724条の2の「身体を害する不法行為」には当たらないと解釈すべきといえます。
したがって、改正民法の他の条文との比較からしても、セクハラ・パワハラにより精神的損害が生じたとしても、身体に損害が生じていないのであれば、「身体を害する不法行為」に当たらないといえます。

 

5 身体に損害が生じず、精神的損害に留まるパワハラ・セクハラは、「身体を害する不法行為」に該当せず、原則として消滅時効期間が3年間となるといえること
以上のとおり、改正民法724条の2の文言解釈、改正民法の他の条文との比較解釈及び他の法令の文言解釈からすると、セクハラ・パワハラについて身体に損害が生じず、精神的損害に留まるものは、改正民法724条の2の「身体を害する」不法行為に当たらないものと考えられます。
そのため、身体に損害が生じず、精神的損害に留まるセクハラ・パワハラの消滅時効の期間は、3年間となるものと考えられます。

 

第3 セクハラ・パワハラによりPTSDを発症するほどの機能的障害が発生した場合には、もはや精神的損害に留まるとはいえず、「身体を害する不法行為」といえること


1 上記第2の見解が、法務省の見解と整合すること
以上のとおり、身体に損害が生じず、精神的損害に留まるセクハラ・パワハラは、改正民法724条の2の「身体を害する不法行為」に当たらないものと考えられます。
この点、法務省は、精神的損害を生じる不法行為により、PTSDを発症するなどの精神的機能の障害が認められる場合は、「身体を害する不法行為」にあたるとの見解を示しています。
かかる見解は、一見すると上記第2においてご説明した見解と整合しないとも思われます。
しかしながら、不法行為によりPTSDを発症するほどの強い精神的損害が発生した場合は、もはや精神的損害に留まるとはいえず、機能的障害が生じているといえ、身体を害するものであるといえるため「身体を害する不法行為」であるといえます。
そのため、上記第2においてご説明した見解は、法務省の見解と整合するものといえます。
以下詳述します。

 

2 法務省が、単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え、PTSDの発症など、精神的な外傷を原因として身体症状が生じた場合「身体を害する不法行為」にあたるとの見解を示していること
法務省は、次の通り、精神的損害を生じる不法行為により、単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え、PTSDを発症するなどの「精神的機能の障害」が認められる場合、身体的機能の障害が認められるケースと区別すべき理由はないとして、「身体を害する不法行為」に当たるとの見解を示しています。

 

身体を害する不法行為に当たるか否かにつきましては、単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え、いわゆるPTSDを発症するなど精神的機能の障害が認められるケースにつきましては、これを身体的機能の障害が認められるケースと区別すべき理由はないと考えられます。
 したがいまして、PTSDが生じた事案につきましても、身体を害する不法行為に当たるものと考えられるところでございます。
【第192回国会 法務委員会 第12号
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000419220161202012.htm)】

 

3 PTSDにより、機能障害が生じること
PTSDの症状は、次の通り、外傷的な出来事の繰り返し再体験、全般的な反応性の麻痺が執拗に続く、高い覚醒状態を占める症状が執拗に続くという症状が、いずれも1か月以上続くものであり、社会的職業的等において、臨床的に著しい苦痛や欠陥がみられる状態をいいます。
すなわち、PTSDの症状は、精神的な原因に基づき、身体的機能に障害が生じているといえます。

 

A. 以下の2条件を備えた外傷的出来事を体験したことがある。
1. 実際に死亡したり重傷を負ったりするような(あるいは危うくそのような目に遭いそうな)出来事を、あるいは自分や他人の身体が損なわれるような危機状況を、体験ないし目撃したか、そうした出来事や状況に直面した。
2. 当人が示す反応としては、強い恐怖心や無力感や戦慄がある。
B. 外傷的な出来事は、次のいずれかの(あるいはいくつかの)形で、繰り返し再体験される。
1. その出来事の記憶が、イメージや考えや知覚などの形を取って、追い払おうとしても繰り返し襲ってくること。
2. その出来事が登場する悪夢を繰り返し見ること。
3. あたかも外傷的な出来事が繰り返されているかのように行動したり、感じたりすること(その出来事を再体験している感覚、錯覚、幻覚や、覚醒状態や薬物の影響下で起こる解離性フラッシュバックもここに含まれる)。
4. 外傷的出来事の一面を象徴するような、あるいはそれに似通った内的・外的な刺激に直面した時に、強い心理的苦痛が起こること。
5. 外傷的出来事の一面を象徴するような、あるいはそれに似通った内的・外的な刺激に対して、生理的な反応を起こすこと。
C. 当該の外傷に関係する刺激を執拗に避け、全般的な反応性の麻痺が執拗に続く状態が(その外傷を受ける前にはなかったのに)、以下の3項目以上で見られること。
1. その外傷に関係する思考や感情や会話を避けようとすること。
2. その外傷を思い起こさせる行動や場所や人物を避けようとすること。
3. その外傷の要所が思い出せないこと。
4. 重要な行動に対する関心や、その行動へのかかわりが著しく減少していること。
5. 他者に対する関心がなくなった感じや、他者と疎遠になった感じがすること。
6. 感情の幅が狭まったこと(愛情を抱くことができないなど)
7. 未来の奥行きが狭まった感じがすること(出世や結婚、子ども、通常の寿命を期待しなくなるなど)。
D. 高い覚醒状態を示す症状が執拗に続く状態が(その外傷を受ける前にはなかったのに)、以下の2項目以上で見られること。
1. 入眠や睡眠状態の持続が難しいこと。
2. 激しやすさや怒りの爆発があること。
3. 集中困難があること。
4. 警戒心が過度に見られること。
5. 驚愕反応が極端なこと。
E. その障害(基準B+C+Dの症状)が1ヵ月以上続くこと。
F. その障害のため、社会的、職業的に、あるいはその他の重要な方面で、臨床的に著しい苦痛や欠陥が見られること。

 

4 精神的機能障害が生じた場合、身体に損害が生じたといえること
PTSDは、外傷的な出来事を経験したという、精神的な原因に基づき発症する症状です。
しかしながら、その症状としては、身体的機能障害が生じているものといえます。
この点、原因が精神的なものであったとしても、結果として、身体的機能にまで障害が及んでいるのであれば、もはや精神的損害にとどまらず、身体に損害が生じるといわざるを得ないものといえます。
そのため、不法行為によりPTSDを発症するほどの精神的機能障害が生じたのであれば、身体を直接害された場合と区別する理由はなく、身体に損害が生じたといえるものと思われます。
したがって、かかる場合には、改正民法724条の2の「身体を害する不法行為」に当たるとすべきといえます。
法務省もその見解において、「単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え」としていており、かかる見解と整合するものといえます。

 

5 不法行為によりPTSDを発症した場合、権利行使の機会を確保する必要性が高いこと
また、国会の法務委員会は、生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を、他の損害よりも長期の5年間とする理由について、他の被侵害利益と比べて権利行使の機会を確保する必要性が高いためであるとしています。
上記の通りPTSDの診断基準は、1か月以上継続して強度の精神的・身体的な苦痛が生じることとされています。そのため、PTSDを発症している場合には、長期間にわたり、継続して強度の精神的・身体的な苦痛が生じている可能性があり、日常生活にも大きな支障を生じる可能性が高いといえます。
そのため、不法行為によりPTSDを発症した場合においては、損害賠償請求権の時効を中断するための措置を取ることを期待することは難しいといえます。
したがって、不法行為によりPTSDを発症した場合には、身体に損害を生じた場合と同様、他の被侵害利益と比べて権利行使の機会を確保する必要性が高いといえます。

 

第4 立法論


以上の通り、精神的損害に留まる場合のセクハラ・パワハラの消滅時効期間は、3年間になるものと思われます。
なお、精神的損害は、人の心を害する損害であり、物的な損害とは異なります。そのため、物的な損害に比べ、保護の必要性があると考える考え方もあり得るかもしれません。
かかる観点からすると、精神的損害のうち、PTSDを発症するなど機能障害が認められるような場合のみ、消滅時効の期間を5年間とするべきか、そのような場合に限らず、広く精神的損害を保護するべきかは、立法論としては悩ましい問題といえます。
とはいえ、改正民法724条の2の文言が「心身」ではなく、「身体」とされている以上、精神的損害を生じた不法行為を広く「身体を害する不法行為」に含まれるとすることは、解釈の限界を超えるものと言わざるをえません。改正民法を前提とする以上、解釈上は、精神的損害は、「身体」には含まれないとされ、消滅時効の期間は3年間とされることになるものと思われます。
立法論として、精神的損害を広く保護するためには、国会において議論がされ、民法724条の2の文言を、「身体」ではなく「心身」とする、ないし新たに条文を設けるに値するかということは検討されるものともいえますが、現状の文言のままであれば、上記のような解釈であるものといえます。

 

第5 結論


以上の通り、改正民法の文言を前提とすると、セクハラ・パワハラによる不法行為において、身体に損害が生じず、精神的苦痛に留まる場合、改正民法724条の2の「身体を害する不法行為」といえないため、消滅時効期間は、3年間になるものと存じます。
他方で、原因が身体的であるか、精神的であるかにかかわらず、身体機能に障害が生じた場合には、身体に損害が生じたといえ、身体を害する不法行為にあたるものといえます。
そのため、身体に暴行を受けた場合やPTSDを発症した場合など、セクハラ・パワハラにより、身体的機能に障害が生じた場合には、「身体を害する不法行為」に当たるといえ、消滅時効の期間は、5年間になるものと思われます。

 

以上