二輪車の速度について滑走距離や摩擦係数に基づく認定がされた判例

大型自動二輪車と四輪車との間の出会い頭事故において、自動二輪車側の速度が争点となった事案。自動二輪車の速度を直接推認させる事情のないなか、滑走距離や摩擦係数等について、詳細に指摘を行った結果、自動二輪者側が最高制限速度を時速20km以上超過していた事実が認定された判例

名古屋地方裁判所 平成26年(ワ)268号(一部認容)

事故態様及び過失割合が争点となり、被告側で対応した交通事故である。
信号機による交通整理の行われていない丁字路交差点内において、東西道路を西進していた原告運転の大型自動二輪車と、これに北から接続する南北道路から右折進入してきた被告四輪車との間で生じた事故である。原告は被告車両を回避しようとして転倒した。
判決は、東西道路は南北道路に対し広路に当たることから、通常の交差点の事故に比較し、被告の過失はより重いとしながらも、原告にも以下の過失が認められると判示した。
すなわち、原告には、見通しの悪い本件交差点を通過するにあたり、その道路状況にあわせて適切な速度に調節し、減速徐行して走行すべき義務を怠った過失があるとされた。
また、最高速度が時速30kmと規制されていた東西道路を、原告は、時速40km未満で走行していたと主張した。これに対し、被告は、オートバイを用いた実験値のうち最も小さい係数でも0.42であり、また、原告本人が壁に衝突していないなどという誤った前提に基づき算出していることを指摘し、原告の指摘する摩擦係数0.3で算出したとしても、次のとおり、時速60.882Kmとなると反論した。


Vb= √2gⅹb(μcosθ+sinθ)

Vb=√2×9.8×43.8(0.3×0.999445+0.0333148)
Vb=60.882km/h


裁判所は、次のとおり認定した。仮に、原告の主張通り、滑走開始時に時速40km(秒速11.1m)のバイクが43mにわたって滑走する場合の摩擦係数を推定すると、次の算式により、摩擦係数(μ)は、約0.2と導かれる。


11.1= √2×9.8×43×(μ×0.998494-0.0548623)


この数値は四輪車が平たんな氷の場所で制動をかけた場合の摩擦係数に相当する値となり、本件がアスファルト塗装であることや、尋問の結果を踏まえれば、原告に有利に見ても、本件事故直前の原告車両の速度は、被告の主張通り、時速60kmに近いものであったと認められた。
被告は、制限速度を少なくとも20km以上は優に上回る速度で走行していたものである。そのため、原告が適切に減速し走行していれば本件事故を回避できたことは明らかであるとして、この点についても原告に過失があると判断されたのである。
さらに、原告が大型自動二輪車の免許を保有していなかったことに対し、大型自動二輪車についての運転技能の有無を試験により確認していないことと、本件事故の発生には因果関係があると判断された。
以上より、本件事故における原告の過失は45%と認定された事例である。


掲載:

ウエストロー・ジャパン

自保ジャーナル1982号20頁